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“私だけ”の金融体験をデザインする:進化するパーソナライズUIの最前線

なぜ金融サービスに“パーソナライズ”が求められているのか?

金融サービスにおける顧客体験価値の変化

現代の金融サービスは、もはや単にお金を預けたり借りたりするだけの場所ではありません。スマートフォンアプリの普及により、私たちはいつでもどこでも金融取引ができるようになり、その利便性は飛躍的に向上しました。しかし、顧客が本当に求めているのは、単なる便利さだけではありません。一人ひとりに最適なサービスこそが求められているのです。

金融業界にも広がる「個別最適」設計の流れ

こうした背景から、金融業界では「個別最適」なUI/UX設計が重要視されています。ユーザー一人ひとりの属性や行動、ニーズに合わせてアプリの表示内容や機能、おすすめ情報をパーソナライズすることで、顧客は「これは自分のためのサービスだ」と感じ、アプリへの愛着がさらに深まることが期待できます。

パーソナライズUIとは?基本的な考え方と実装パターン

パーソナライズUIは、ユーザー一人ひとりの状況に合わせて、最適な情報や機能を提供するインターフェースです。

属性別表示・行動ベースのレコメンド

ユーザーの年齢や性別などの属性情報、あるいは閲覧・取引履歴といった行動データをもとに表示内容を動的に変化させます。たとえば、資産形成に関心がある人にはNISA情報を、住宅ローン検討者にはシミュレーション機能を優先表示するなど、まるで専任のコンシェルジュのように、その人に合った情報や商品を提案します。

カスタマイズ可能なUI・ダッシュボード設計

ユーザー自身がアプリの表示内容やレイアウトを自由に変えられるようにするのも、パーソナライズの一つです。ホーム画面(ダッシュボード)に表示する情報(口座残高や利用額など)やその並び順をユーザーが選べるようにすることで、「私だけのアプリ」という、より使いやすい体験を提供できます。

データドリブンな体験最適化とは何か

パーソナライズUIを効果的に実現するには、データドリブンなアプローチが不可欠です。ユーザーの行動データを継続的に収集・分析し、そこから得られる知見(インサイト)に基づいてUI/UXを改善するサイクルを回します。データを基に仮説を立て、検証し、改善するプロセスを繰り返すことで、洗練されたパーソナライズ体験を実現できます。


金融UX/CX 成功事例

① auじぶん銀行の“自分専用”口座体験

auじぶん銀行は、ユーザーの利用状況に応じて画面構成を最適化する「じぶん銀行アプリ」で注目を集めています。

利用状況に応じた画面構成の最適化

ユーザーがよく使う機能や、現在利用中のサービスに関連する情報を優先的に表示することで、ユーザーが求める情報へのアクセスを迅速化しています。

金利やサービス表示のカスタマイズ例

ユーザーの預金残高や利用頻度によって、より有利な金利情報や、おすすめのキャンペーン情報などがパーソナライズされて表示されます。

顧客満足度の向上と解約率の低下効果

このように「自分ごと」として感じられるUIは、ユーザーのエンゲージメントを高め、結果的に顧客満足度の向上や解約率の低下に貢献しています。

参考:https://www.jibunbank.co.jp/service/jibun_app/?cid=gnv03

② みんなの銀行のスマートUI戦略

「みんなの銀行」は、従来の銀行アプリのイメージを覆すスタイリッシュなUIと、ユーザーの行動や嗜好を深く理解したパーソナライズ戦略で、特にデジタルネイティブ世代からの支持を集めています。

パーソナライズされた通知・マネーレポート表示

ユーザーの支出パターンをAIが分析し、「Record(レコード)」機能で支出の内訳を視覚化。使いすぎ通知や収支予測など、パーソナライズされた情報でユーザーのお金管理をサポートします。

スタイリッシュなUI×ユーザー文脈理解:

直感的で洗練されたデザインは、金融アプリに抱かれがちな抵抗感を減らし、誰もが気軽にサービスを利用できる環境を作り出しています。その上、ユーザーの暮らしぶりや関心に合わせた情報提供を通じて、お客様一人ひとりに深く寄り添った体験を実現しています。

Z世代を意識したUXの成功ポイント

SNSアプリのような直感的な操作感や、友人との送金機能など、「お金」を身近に感じるUXを提供。Z世代のライフスタイルと感性に響くデザインで、若年層の獲得に成功しています。

参考:https://www.minna-no-ginko.com/

③ PayPay銀行のダッシュボード最適化

PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)は、モバイル決済サービス「PayPay」との連携を強みとし、多くのユーザーに利用されています。その銀行アプリは、ユーザーの利便性を高めるパーソナライズされたダッシュボードが特徴です。

ユーザー行動に応じたファーストビューの変化

アプリ起動時に表示される画面が、振込頻度や残高確認の傾向など、ユーザーの行動履歴に応じて変化。必要な機能や情報にすぐアクセスできます。

残高・出入金・履歴の表示順調整

アプリ内のダッシュボードでは、頻繁に確認される残高や直近の入出金明細が分かりやすく配置されています。これにより、ユーザーは目的の情報を一目で把握できます。

モバイルアプリ特化型UXの特徴

PayPay銀行は、当初からインターネット専業銀行として展開してきた経緯もあり、PCサイトの機能を単にアプリに落とし込むのではなく、スマートフォンの特性を最大限に活かした操作性、表示方法、そしてパーソナライズが実現されています。これにより、ユーザーはいつでもどこでも、ストレスなく銀行サービスを利用できる環境が提供されています。

参考:https://www.paypay-bank.co.jp/apps/general.html


導入のポイントと注意点:個別最適と“信頼”の両立

パーソナライズUIの導入はメリットが大きい一方で、特に金融サービスにおいては信頼性が何よりも重要です。

データ活用の透明性とユーザー同意設計

ユーザーデータを活用する際は、透明性が非常に重要です。どのようなデータを何のために使うのかをユーザーに明確に伝え、適切な同意を得ましょう。プライバシーポリシーを分かりやすく提示し、ユーザーが安心してデータを提供できる環境を整えることが大切です。

過剰最適化による混乱の防止

パーソナライズは効果的ですが、過剰な最適化は逆効果になることがあります。表示が頻繁に変わったり、レコメンドがコロコロ切り替わったりすると、ユーザーは混乱し、不安を感じてしまうかもしれません。「常に変わらない安心感」と「自分に合った情報の利便性」のバランスを取ることが肝心です。

金融ならではの“安心感”を壊さないデザイン配慮

金融サービスは財産を扱うため、堅牢性、安全性、そして安心感が何よりも重要です。いくらパーソナライズされても、デザインが軽薄だったり、セキュリティに不安を感じさせたりすれば、ユーザーは利用をためらいます。金融機関としての信頼性を損なわないデザインを心がけましょう。


まとめ:国内事例に学ぶ“信頼されるパーソナライズUX”の設計術

本記事では、「私だけ」の金融体験をデザインするパーソナライズUIの重要性、具体的な実装パターン、そして日本の銀行アプリの成功事例を解説しました。

auじぶん銀行、みんなの銀行、PayPay銀行の事例からわかるのは、単に機能を追加するだけでなく、ユーザー一人ひとりのニーズや行動に寄り添い、最適な情報と体験を提供することが、現代の金融アプリには不可欠だということです。

しかし、その導入には、データ活用の透明性、過剰な最適化の回避、そして金融機関としての信頼性を保つデザイン配慮が求められます。これらのポイントを押さえ、ユーザーに真に「使いやすい」「安心できる」と感じてもらえるパーソナライズUXを追求することが、今後の金融アプリ運営における成功の鍵となるでしょう。


ユーザーにとって「私だけ」の特別な存在となるよう、パーソナライズUXの導入を検討してみませんか?

アジケでは、銀行・金融業界に特化したデザインサービスを展開しています。サービスの内容、実績等が気になる方はお気軽にお問い合わせください。

ajike丨UX Design
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”仕組みのデザイン”をテーマにUXコンサルティング、事業デザイン、UI/UX改善などを手がけるデザイン会社 ▼仕組みのデザインとは? 課題解決や価値創造が、局所的ではなく持続的に循環していくサイクルそのものをつくることです。例えば「DX」も仕組みのデザインのひとつ。教育現場や製造現 場、店舗など多数の場所においてDXの推進等を支援しています。

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