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失敗するDX、成功するDX。鍵はシステム導入ではなく「従業員体験(EX)」のデザインにあった

「最新のシステムを導入したのに、なぜか現場で使われていない」「業務効率化のためにアプリを作ったけれど、レビュー評価が低い」――。

こうしたお悩みは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する多くの企業、特に金融機関の担当者様が直面する共通の課題ではないでしょうか。

DXとは、最新のデジタル技術を導入するだけではありません。デジタルを通じて、ビジネスモデルや組織のあり方そのものを変革し、競争優位性を確立することです。しかし、多くの企業では理想とはかけ離れた現実が起こってしまっています。高額な投資をしてシステムを導入しても、期待したほどの成果が出ず、むしろ現場の不満が高まることも少なくありません。

このギャップの根本原因は、システムの機能や性能ではなく、それを使う「人」の体験を置き去りにしている点にあります。

目次[非表示]

  1. 1.多くのDXプロジェクトが陥る「3つの失敗パターン」
    1. 1.1.1. ツール導入が目的化している「手段の目的化」の罠
    2. 1.2.2. 現場の業務フローが無視され、使われないシステムが生まれる
    3. 1.3.3. 従業員の「変化」への心理的抵抗が考慮されていない
  2. 2.成功の鍵は「従業員体験(EX)」のデザインにあった
    1. 2.1.EX(Employee Experience)とは何か?
    2. 2.2.なぜDXの成功にEXの視点が不可欠なのか
    3. 2.3.顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の表裏一体の関係
  3. 3.従業員体験(EX)をデザインするための具体的な3ステップ
    1. 3.1.ステップ1:現状を知る(従業員リサーチ)
    2. 3.2.ステップ2:理想の体験を描く(従業員ジャーニーマップ)
    3. 3.3.ステップ3:小さく試して、改善する(プロトタイピング)
    4. 3.4.DXの本質は「体験」のデザインである

多くのDXプロジェクトが陥る「3つの失敗パターン」

なぜ、DXは思うように進まないのでしょうか? 多くのプロジェクトが陥りがちな共通の失敗パターンを3つご紹介します。

1. ツール導入が目的化している「手段の目的化」の罠

「クラウド移行が完了した」「最新のCRMツールを導入した」といったことが、DXのゴールだと勘違いしていませんか?多くの企業が陥りがちなのが、この「手段の目的化」の罠です。

DXは単にデジタルツールを導入することではありません。デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセスを根本から変革し、新たな価値を創造することが本質です。しかし、多くのDXプロジェクトでは、ツールを導入すること自体が目的となってしまいがちです。

例えば、SFA(営業支援システム)を導入したものの、入力項目が多すぎて現場の営業担当者が敬遠し、結局Excelでの管理に戻ってしまった、という話はよく耳にします。これは、SFA導入の本来の目的である「営業プロセスの可視化と効率化」が達成されず、単に「SFAを入れた」という事実だけが残ってしまった状態です。

ツールはあくまで、業務効率化、顧客満足度の向上、新たな収益源の確立といったビジネスの成果を実現するための手段に過ぎません。導入する前に「このツールで何を達成したいのか?」「誰に、どのようなメリットをもたらすのか?」という目的を明確にすることが、失敗を避けるための第一歩です。

2. 現場の業務フローが無視され、使われないシステムが生まれる

せっかく最新のシステムを導入しても、「使いにくい」「現場の仕事に合わない」といった理由で、結局誰も使わなくなってしまうケースは少なくありません。これは、システム導入の意思決定が、現場の業務実態を十分に把握しないまま進められているためです。

情報システム部門や経営層が「このシステムなら生産性が上がるはずだ」と判断しても、現場で働く人のリアルな業務フローや長年の慣習が考慮されていなければ、新しいシステムは「ただの障害物」と認識されてしまいます。

特に、金融機関の業務は多岐にわたり、複雑な承認プロセスや独自の慣習が存在します。こうした現場の声を無視してパッケージシステムをそのまま導入すると、既存の業務フローに無理やり合わせる形になり、かえって手間が増えたり、ミスを誘発したりするリスクが高まります。

システムを企画・設計する際は、現場の担当者へのヒアリングや、実際の業務を観察するなどの手法を通じて、従業員がどのような課題を抱え、どのように業務を進めているのかを深く理解することが不可欠です。現場の声を反映させることで、初めて「使われる」システムを生むことができるのです。

3. 従業員の「変化」への心理的抵抗が考慮されていない

人は本能的に、慣れ親しんだ環境ややり方を変えることに抵抗を感じます。

「新しいシステムを覚えるのは面倒だ」「今のやり方で問題ないのに、なぜ変える必要があるのか?」といった声は、単なる反発ではなく、変化に対する自然な心理的抵抗の表れです。この抵抗を無視して、一方的に「明日から新しいシステムを使ってください」と通知するだけでは、従業員のエンゲージメント低下やモチベーションの喪失を招きかねません。

DXを成功させるには、システム導入の「技術的な側面」だけでなく、「人が変化を受け入れるプロセス」にも焦点を当てる必要があります。なぜこのシステムを導入するのか、それによってどのようなメリットがあるのかを丁寧に説明し、従業員が納得して自ら「使ってみよう」と思えるような働きかけが重要なのです。

従業員を単なるシステムの「利用者」としてではなく、DXの「推進者」として巻き込む視点を持つことが、成功の鍵となります。

成功の鍵は「従業員体験(EX)」のデザインにあった

DXを成功させるには、システムを「作る」「導入する」という発想から、システムを通じて「より良い体験をデザインする」という発想への転換が必要です。その鍵となるのが「従業員体験(EX)」です。

EX(Employee Experience)とは何か?

従業員体験(EX)とは、従業員が企業と関わるすべての接点において感じる体験の総称です。採用活動から、日々の業務、福利厚生、そして退職に至るまで、あらゆるタッチポイントでの感情や満足度がEXを構成します。このEXを向上させることで、従業員のエンゲージメントや生産性が高まり、結果として企業の成長に繋がります。

なぜDXの成功にEXの視点が不可欠なのか

DXの本質は、組織全体を変革することです。その変革の主体となるのは、システムを使いこなす「従業員」に他なりません。従業員が新しいシステムを使いこなすモチベーションを持てなければ、どんなに優れたシステムも宝の持ち腐れとなってしまいます。EXの視点を持つことで、従業員が「使いたい」「便利だ」と感じるシステムを設計でき、DXの成功率を飛躍的に高めることができます。

顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の表裏一体の関係

「どうすれば自社アプリのレビュー評価が上がるだろう?」というお悩みは、顧客体験(CX)の改善に関わることです。しかし、顧客に良い体験を提供するには、まずそのサービスを提供する従業員自身が、心地よく働けている必要があります。従業員が日々の業務にストレスを感じていては、質の高い顧客サービスを提供することは困難です。EXとCXは、まさに表裏一体の関係なのです。

たとえば、三井住友銀行が提供するモバイル総合金融サービス「Olive」は、顧客に「便利で使いやすい」というシームレスな体験を提供することで、サービス開始からわずか半年で100万口座を突破する大きな成功を収めました。

この成功の背景には、顧客視点でのUI/UXデザインはもちろん、現場の従業員の体験を考慮したDX推進があります。全従業員向けにDX研修プログラムを提供し、デジタルリテラシーやスキルの向上を積極的に支援したのです。

顧客がアプリの利用で困った際も、デジタルスキルを身につけた従業員が迅速かつ的確に対応できるため、顧客満足度の向上に繋がります。これは、「働く人々の体験をどうデザインするか」が、最終的に「顧客にどのような価値を届けられるか」に直結するという、CXとEXの表裏一体の関係を明確に示しています。

顧客に素晴らしい体験を提供するには、まず従業員の体験をより良くすることが不可欠なのです。

(参照:https://www.smfg.co.jp/dx_link/article/0033.html

従業員体験(EX)をデザインするための具体的な3ステップ

では、具体的にどのようにEXをデザインすればよいのでしょうか? 以下の3つのステップに沿って進めることをお勧めします。

ステップ1:現状を知る(従業員リサーチ)

DXの第一歩は、システムを「どう作るか」ではなく、「誰のために、何を作るか」を深く理解することです。そのためには、システムを使うことになる従業員の声を徹底的に聞くことが不可欠になります。

まずは、現状の業務フローや既存のシステムに対する不満、非効率な点を洗い出しましょう。単に「何に困っていますか?」と尋ねるだけでなく、「どこで、どんな操作に、どれくらいの時間がかかっていますか?」といった具体的な質問を投げかけます。従業員へのアンケートやグループインタビュー、さらには実際に業務を観察する「フィールドワーク」など、複数の手法を組み合わせることで、表面的な声だけでなく、潜在的な課題も見つけ出すことができます。

このリサーチを通じて、これまで見過ごされてきた「暗黙のルール」や「非公式な業務フロー」が明らかになることもあります。これらのインサイトこそが、本当に役立つシステムをデザインするための重要な鍵となります。

ステップ2:理想の体験を描く(従業員ジャーニーマップ)

現状の課題が明らかになったら、次はそれを解決する「理想の体験」を具体的に描きます。このプロセスで非常に有効なのが、「従業員ジャーニーマップ」という手法です。

従業員ジャーニーマップとは、特定の業務プロセスにおいて、従業員がどのような行動を取り、何を考え、どのような感情を抱くのかを時系列で可視化したものです。例えば、「顧客からの問い合わせ対応」という業務について、問い合わせの受付から、情報検索、上長への確認、最終的な回答に至るまでの全プロセスをマップに落とし込みます。

このマップ上に、現状のボトルネック(例えば、「必要な情報が複数のシステムに分散していて探すのに時間がかかる」など)や、従業員が感じるストレスを具体的に書き込むことで、どこに改善の余地があるのかが一目でわかるようになります。そして、その課題を解決する「理想の業務フロー」を描くことで、目指すべきゴールが明確になります。

このステップを経ることで、「ただのシステム導入」ではなく、「従業員の体験をより良くするためのデザイン」という視点が生まれるのです。

ステップ3:小さく試して、改善する(プロトタイピング)

理想の体験が描けたら、いきなり大規模な開発に着手するのではなく、「小さく、素早く試す」ことをお勧めします。このプロセスをプロトタイピングと呼びます。

プロトタイプ(試作品)とは、実際のシステムのごく一部の機能や画面を簡潔に実装したものです。これを使って、現場の従業員に試してもらい、率直なフィードバックを収集します。「このボタンはもっと大きくしてほしい」「この操作は少し直感的ではない」といった生の声は、開発初期段階で方向性を修正する上で非常に貴重な情報となります。

この「作っては試し、改善する」というサイクルを繰り返すことで、失敗のリスクを最小限に抑えながら、本当に現場で使えるシステムへと磨き上げていくことができます。完璧を目指して多大な時間とコストをかけるよりも、まずは必要最小限の機能で検証し、ユーザーの反応を見ながら徐々に機能を拡張していくアジャイルな開発手法は、不確実性の高いDXプロジェクトにおいて、成功への近道となるでしょう。

DXの本質は「体験」のデザインである

DXとは、単なるデジタル化や最新ツールの導入ではありません。従業員と顧客の体験をより良くデザインし直すことこそが、DXの本質になります。

自社のDXが停滞していると感じているなら、まずは「どうすれば従業員がもっと気持ちよく働けるか」という従業員体験の視点から、現状の業務プロセスやシステムを見直してみてはいかがでしょうか。

従業員の体験を向上させるシステムは、必ず顧客の体験向上にも繋がります。それが結果として、企業全体の変革と成長を促すことになるでしょう。

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ajike丨UX Design
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”仕組みのデザイン”をテーマにUXコンサルティング、事業デザイン、UI/UX改善などを手がけるデザイン会社 ▼仕組みのデザインとは? 課題解決や価値創造が、局所的ではなく持続的に循環していくサイクルそのものをつくることです。例えば「DX」も仕組みのデザインのひとつ。教育現場や製造現 場、店舗など多数の場所においてDXの推進等を支援しています。

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