Ver.16
抽象にいるとみんな不安になる

“この記事はポッドキャストの内容を編集しています。
記事をもっと楽しみたい方はぜひポッドキャストをお聞きください”

　▼本記事の話者プロフィール

　　神田 淳生（かんだ・あつお）

　🎓 経歴・略歴
　　関西学院大学 総合政策学部 卒業（2003‑2007）
　　卒業後、デジタルエージェンシーにWebデザイナーとして入社
　　2008年：株式会社アジケにウェブデザイナーとしてジョイン
　　2015年：マネージャー就任
　　2018年：UXデザイン事業部取締役に昇格
　　2022年：デザイン組織開発支援事業部の取締役に就任
　💡 スキル・専門領域
　　UI/UXデザイン：ブランドサイト、Web・アプリ設計のプロジェクトリード多数 
　　組織向けデザイン支援：組織内のデザイン体制構築、人材育成プログラム『Dods』開発 
　　デザインシステム構築：大手金融機関向けにデザインシステム導入をリード

今回のテーマは、「抽象的なフェーズにいるとみんな不安になる」です。プロジェクトを進める中で、この「抽象度」が不安の根源となることは少なくありません。多くの方が経験したことのある「あるある」ではないでしょうか？

今回は、この抽象的なフェーズがもたらす不安の正体と、それを解消するための具体的なアプローチについて神田さんに語っていただきました。

「抽象的なフェーズ」と聞くと、なんだか知的でかっこいい響きがありますよね。いわゆる「上流工程」と呼ばれる部分で、サービスのビジョンを策定したり、ユーザー体験を設計したりと、新規事業の立ち上げなどでは絶対に欠かせない重要なプロセスです。プロジェクトメンバーやお客さんを含め、誰もが「とても意味のあることだ」と感じながら取り組んでいるはずです。

しかし、この抽象的なフェーズに何週間も費やしてしまうと、だんだん関係者の不安感が大きくなっていくのを強く感じます。なぜなら、このフェーズでは目に見えるものがほとんどないからです。私たちは言葉のやり取りやフレームワークを駆使しながら、頭の中で一生懸命想像を膨らませていますが、そのイメージがお客様とズレていたり、次のステップにどう繋がるのかが見えなかったりすると、「次に何になるんですか？」「話が噛み合わないな」といった状況に陥ってしまうんです。

具体的な例を挙げましょう。サービスのペルソナ作成を考えてみてください。ユーザーの属性を洗い出し、マッピングし、グループ分けし、調査を進めていく。もしこれが1週間で具体的なペルソナとして形にできれば、特に不安を感じることはないでしょう。でも、具体的なペルソナを出すまでに何週間もかかってしまうと、「これ大丈夫なのかな？」「いつになったら出てくるんだ？」という空気が漂い始めるんです。

このような状況、みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか？

ここで私がすごく大事だと感じるのは、ある程度方向性が見えてきた段階で、段階的に具体化しようとしないことです。抽象的なものから具体的に結びつける際に、少しずつ具体性を増していくのではなく、ある程度抽象的な段階であっても、次のステップでは思い切って「ジャンプ」して具体的なものを出してみるのが非常に有効だと考えています。

いわゆる「抽象と具体を行き来する」という言葉がありますが、まだ具体的な形が見えない段階でも、仮説を立てて、今の段階で考えうる最も具体的なものを一度提示してみるんです。そうすれば、その具体的なものを見ながらお客様と議論ができるため、どこにズレがあるのか、何が検討不足なのかが格段に見えやすくなります。

「まずは抽象的な部分、次に少し具体的な部分、その次にさらに具体的な部分」というように段階を踏んで進めようとすると、「これでいつまで続くんだろう？」という状況に陥ってしまう可能性が高いのです。

私たちデザイナーのように「形にする」ことを得意とする人間にとって、この具体的なものを出す力は大きな強みになります。画面のデザインに限らず、先ほどのペルソナ作成の段階でも、できるだけ具体的な「絵」を出すことが、不安を取り除く最も手っ取り早い解決策だと考えています。

どれだけ具体的なものを提示できるか、そしてその仮説の精度がどれだけ高いかが、まさに私たちの「腕の見せ所」なんですよね。プロジェクトを進行するディレクターやプロジェクトマネージャーも、スケジュールを組む際やデザイナーに作成を依頼する際には、この「議論した内容からどこまで具体的なものを出せるか」という視点を意識して進めていくことが非常に重要です。それができれば、お客様とも良い議論ができ、プロジェクトを円滑に進めることができるでしょう。

お客様とのコミュニケーションで「仮説構築力」や「ゴールを想像する力」は非常に重要です。「とりあえず作りたいのはこういうものですよね」というように、現段階ではどうなるか分からなくても、最終的に出来上がるもののイメージを提示してあげること。これは非常に難易度が高いですが、それだけ価値のあるアイデア力だと感じています。

多くの人は一歩一歩着実に前に進もうとしますが、それでは効率的ではありません。ゴールに「旗」を立て、そこから逆算して進めていくことができれば、プロジェクトの質は格段に向上します。私自身も常にこの点を意識して仕事に取り組んでいますし、一緒に仕事をするメンバーにも、最近はこのような観点でのフィードバックをするようにしています。

こういった考え方や感覚は日々の訓練によって培われるものだと思います。もちろん、経験を積むことで後から身につく部分もありますが、何よりも「まずはこのゴールを出そうとする」という意識が非常に重要なポイントになります。

また、クリエイターの方は自分が作ったものを「自分の分身」のように捉え、否定されると自分が否定されたように感じてしまうことがあります。そのため、間違ったものを出すのを恐れてしまうかもしれません。しかし、私は「出した人が偉い」と考えています。みんながまだ想像できていない中で、たとえ間違っていたとしても、具体的なものを提示することで話が前に進む、偉いと思いませんか？

非常に勇気のいることですが、その一歩を踏み出すことで、プロジェクトは確実に前進します。ぜひ、自信を持って具体的なアウトプットを出すことに挑戦してほしいものです。

私たちは頭の中で想像しているものが、お客様や相手のイメージと大きくズレている場合が非常に多いということも認識すべきことです。だからこそ、作り手はその段階で、できるだけ具体的なものを出す努力をすべきなんです。そこが、まさに私たちの「腕の見せ所」と言えます。

もし「イメージがズレているな」「相手が不安そうな顔をしているな」と感じたときは、躊躇せずに具体的なものを作成し、それを見ながら議論を進めてみてください。これが、プロジェクトの不安を解消し、より良い成果へと導く一つの解決策になることでしょう！

こちらの記事もぜひ合わせてお読みください📕

アジケでは、金融機関・大手企業のデザインルール設計や運用支援を多数手がけています。
“伝わるデザイン”にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください！