
“この記事はポッドキャストの内容を編集しています。
記事をもっと楽しみたい方はぜひポッドキャストをお聞きください”
▼本記事の話者プロフィール
神田 淳生(かんだ・あつお)
🎓 経歴・略歴
関西学院大学 総合政策学部 卒業(2003‑2007)
卒業後、デジタルエージェンシーにWebデザイナーとして入社
2008年:株式会社アジケにウェブデザイナーとしてジョイン
2015年:マネージャー就任
2018年:UXデザイン事業部取締役に昇格
2022年:デザイン組織開発支援事業部の取締役に就任
💡 スキル・専門領域
UI/UXデザイン:ブランドサイト、Web・アプリ設計のプロジェクトリード多数
組織向けデザイン支援:組織内のデザイン体制構築、人材育成プログラム『Dods』開発
デザインシステム構築:大手金融機関向けにデザインシステム導入をリード
ここ1、2年で、私の仕事の進め方はAIによって大きく変わりました。アイデアを形にするまでの時間が劇的に短縮され、これまでにないスピードで多くのプロトタイプを制作しています。
しかしその一方で、大きな課題にも直面しています。それは、「制作後のメンテナンスが、大きな負担となり得る」という現実です。
AIの支援を受けて生み出したツールも、やがて予期せぬエラーを起こすことがあります。その原因究明や対応には、依然として人間の深い知見が必要になります。AIと共にアイデアをどこまでも広げられても、最終的に人間が責任を持って価値を持続させられるものでなければ、意味を成さない。この実感は、今まさに私たちデザイン業界が向き合っている、構造的な変化の始まりだと感じています。
AIが業界のルールを塗り替えるゲームチェンジャーであることは、もはや論を俟ちません。1年後、3年後の予測は困難を極めますが、少なくとも近い将来、デザイン会社の収益構造が変化する兆しが見えています。
その鍵となるのが、「請負契約」です。
「請負契約」とは、Webサイトのような完成品(成果物)の納品に対して対価をいただく契約形態のことで、私たちのような制作会社にとっては、非常に馴染み深い契約形態です。
もちろん、この契約には厳しい側面もあります。お客様が求める品質水準を満たすまで、あるいは瑕疵がなくなるまで、納品が完了しないこともあります。時には修正が重なり、プロジェクトが困難な状況に陥ることも、私たちは過去に幾度となく経験してきました。
その経験から、近年私たちはお客様と伴走し、時間単位で対価をいただくパートナー型の「準委任契約」を事業の主軸としてきました。この事業の軸は、今後も変わることはないと思います。
しかし、AIの登場によって、「請負契約」が持つ可能性を、私たちはもう一度見直すべき時に来ていると感じています。
従来、Webサイト制作はディレクター、デザイナー、エンジニアがチームを組むのが常識でした。しかしAIを活用すれば、これら三者の役割を、一人の人間がかなりのレベルまで担えるようになりつつあります。これが、私たちが実感している大きな変化です。
ここに、「請負契約」のメリットが再び浮かび上がってきます。
請負契約は、定められた成果物を納品すれば、そのプロセスは問われません。つまり、AIとの協業によって一人が三役をこなし、従来3人が必要だった仕事を一人で完遂できれば、一人で三倍の価値を生み出し、それに見合った対価を得ることも可能になるのです。
これは、時間単位で対価を得る「準委任契約」では実現し得ない収益モデルです。新しい時代の技術が、伝統的な契約形態に新たな価値を与え始めている。そう言えるのではないでしょうか。
もちろん、この新たな働き方には大きな責任が伴います。それが、冒頭で触れた**「メンテナンス」と「品質」の問題**です。
AIの力で一時的にプロダクトを生み出せても、その後の運用に耐えうる品質を担保できなければ、プロフェッショナルとしての責務を果たせません。
そう考えると、これからの時代に真に価値を持つのは、単に「創れる」こと以上に**「その品質を保証できる」**ことへとシフトしていくのかもしれません。
「このAI生成物は、本当にビジネスの現場で信頼できるのか?」 そうした問いに、専門家として的確な判断を下し、品質を保証する。そのような役割にこそ、新たな価値が生まれるのではないでしょうか。
この状況は、歴史における産業革命の頃を彷彿とさせます。機械による大量生産が広がる中で、思想家のウィリアム・モリスは「アーツ・アンド・クラフツ運動」を通して、手仕事の価値や人間的な豊かさを問い直しました。
AIによる生成物が世の中に溢れる未来が来るとすれば、私たちデザイナーの役割は、まさに**「味気(アジケ)」、つまり人間的な豊かさや、心に響く体験をいかにして届けるか**という点にあるのだと思います。効率や生産性だけではない、人の心を動かす価値の創造。これこそが、私たちの会社の社名に込めた想いであり、追求し続けるべき目標なんです。
AIの登場により、私たち個々のクリエイターは、より大きな力を得ることができます。そして「請負契約」は、その価値を正当に評価されるための一つの道筋を示してくれるでしょう。しかし同時に、それは私たちに、より高度なプロフェッショナリズムと、人間だからこそ提供できる本質的な価値とは何かを、問いかけ続けてくるべきだと、私が考えています。
こちらの記事もぜひ合わせてお読みください📕
アジケでは、金融機関・大手企業のデザインルール設計や運用支援を多数手がけています。
“伝わるデザイン”にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください!