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ロックの歴史で理解する「カスタマー・エクスペリエンス」(顧客体験)の変化

こんにちは。UXデザイナー兼ディレクターの小池です。
今回は、僕の大好きなロックをテーマに、“サービス”としてのロックがどのように消費者のニーズを満たしてきたかお話したいと思います。

はじめに


イギリスやアメリカでは、日本に比べ莫大な資本がエンターテイメントに投入されています。

50年代以降、ロックは若者文化のアイコンとして大きな役割を担ってきました。
現代ではジャンルが細分化し、支持層に地域やハイスクールヒエラルキーなど様々なケースを内包しているため、ひとえに「ロックファン」と言ってもその姿を捉えることはできません。

なので、ロックを「文化」としてアーティストや支持層の文化的背景や様式の変化から因数分解して考察を加えていくのが一般的ですが、切り口としてはあまりに多くのライターがテーマにしてきました。したがって今回はアーティストが支持層にどのような「体験」を与えてきたのかをディケイドごとに整理し、”顧客体験の変化”がどのように起こってきたか可視化することを行いたいと思います。

顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)とは?

ロックの時代を因数分解する前に、まずは”顧客体験”とは何なのかを定義する必要があります。

顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)とは、ユーザーがサービス全体に触れた時に感じる体験を指す言葉であり、プロダクトを通してサービスに触れた時に感じる体験を指す言葉である「ユーザーエクスペリエンス」よりも広義な概念です。

サービスのカスタマー・エクスペリエンスを考えるときは、そのサービスが持つベネフィットが、どのような役割を果たしているのかを明文化することによって考えていくことができます。
細かく分類すると、カスタマー・エクスペリエンスは下記の5種類があります。

1. 知覚的経験価値

店舗のBGM、香り、デザイン、商品陳列など、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感から顧客に訴えかけます。

2. 感覚的経験価値

丁寧なサービスや話し方で顧客の感情に対して訴えかけて信頼を得ます。

3. 創造的経験価値

商品・サービスのコンセプトや企業の理念などを顧客に伝えることで、知性や好奇心に対して訴えかけます。

4. 行動的経験価値

食生活、通勤・通学などの日常生活においての時間利用方法など新しいライフスタイルの提案によって、行動・身体に訴えかけます。

5. 準拠集団

エコ、ボランティア活動、ブランドを身に着ける喜びなど、集団・グループへの帰属意識に訴えかけます。

ロックミュージックもエンターテイメント産業である以上、サービスを提供する側=アーティストと、サービスを享受する側=消費者の関係性は存在します。

これをロックミュージックが持っているベネフィットに置き換えると、下記のように考えることができます。

1. 知覚的経験価値=楽曲の様式が消費者に与える効果
2. 感覚的経験価値=楽曲が訴求するイメージ・世界観
3. 創造的経験価値=楽曲を通じた社会的主張に対する共感・共鳴
4. 行動的経験価値=アーティストが実践・提示しているライフスタイルの模倣
5. 準拠集団=音楽を聞く・またはファッションと模倣することで得られるカルチャー的な帰属意識

本来、音楽とは文字通り「音を楽しむ」聴覚的な娯楽ですが、そこにファッションやパフォーマンスなどの視覚効果、ライフスタイルの提示や社会的主張というベネフィットが付加され、「トータルでの体験」というものが重要になったのもロックミュージックの重要なポイントですね。
アメリカやイギリスの戦前・戦後すぐにも原始的な音楽産業は存在しましたが、ここまで複雑なベネフィット構造はなかったかと思います。

次の項では、各ディケイドでの代表的なロックのスタイルが持っている特徴を上記の法則に代入し、顧客体験のニーズがどのように変化していったかを明らかにしていきます。

50年代のロックスタイル 〜ロックの黎明期〜

代表的なロックアーティスト
エルヴィス・プレスリー

チャック・ベリー

ジェリー・リー・ルイス

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

8ビート(1小節8分の偶数拍にアクセントを置いたビート)の発明による既存の音楽には無かった強烈なグルーヴ感

2. 感覚的経験価値

恋愛などのテーマを情熱的に伝えるスタイル

3. 創造的経験価値

不良文化を反映した反抗的・破天荒ライフスタイルの創造

4. 行動的経験価値

不良文化を反映した反抗的・破天荒なアティチュード

5. 準拠集団

リーゼントや黒人ファッションを着用することによる不良文化への帰属意識

60年代のロックスタイル 〜サイケデリック・ロックの時代〜

代表的なロックアーティスト
ビートルズ(活動中期)

クリーム

ジミ・ヘンドリクス

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

激しく歪んだギターや細かい音楽的構造の反復(リフ)による強力な印象訴求

2. 感覚的経験価値

マリファナやLSDなどのドラッグ体験を再現したような陶酔感・浮遊感のあるイメージ・世界観

3. 創造的経験価値

ヒッピー的なライフスタイルやロックスター的な破天荒ライフスタイルの創造

4. 行動的経験価値

革ジャン

5. 準拠集団

ヒッピースタイルや長髪・ヒゲを伸ばすことによるカウンターカルチャーへの帰属意識
(長髪やヒゲのスタイルは50年代は無かった)

70年代前半のロックスタイル 〜ハードロック・プログレの時代〜

70年代の前半は、60年代末までに完成したロックのテンプレートをさらに昇華した複雑な音楽様式が発達してきます。
ハードロックやプログレッシブ・ロックの時代です。
曲の構造はより構築的になり、中には20分を超えるような長尺な曲も一般的になってきました。

代表的なロックアーティスト
ピンクフロイド

キング・クリムゾン

LED ZEPPERIN

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

60年代のスタイルをさらに様式化・複雑化した構築的な音世界

2. 感覚的経験価値

マリファナやLSDなどのドラッグ体験を再現したような陶酔感・浮遊感のあるイメージ・世界観

3. 創造的経験価値

ベトナム戦争への反戦運動などの意思表示を行うことによる価値観の提示

4. 行動的経験価値

ヒッピー的なライフスタイルやロックスター的な破天荒ライフスタイルの創造

5. 準拠集団

ヒッピースタイルやジーンズの着用することによる若者コミュニティへの帰属意識

70年代後期のロックスタイル 〜パンクロックの時代〜

70年代後期は、それまでに発展・複雑化しすぎたロックへの反動で衝動的で暴力的な、初期のロックに見られるような特徴が復活してきます。それがパンクです。パンクはもともとアメリカのアンダーグラウンドに存在した「ガレージ・ロック」を源流とし、初期ロックの持っていた感情的な部分をより過激に純化したスタイルです。

代表的なロックアーティスト
イギーポップ&ザ・ストゥージズ

セックス・ピストルズ

ラモーンズ

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

「速さ」「激しさ」を極端に追求したラウドネス

2. 感覚的経験価値

一つ前の時代の荘厳かつ難解なスタイルを否定し、極端にシンプルにしたことによる親近感・リアリティ

3. 創造的経験価値

政治的なイデオロギーを意識的に反映してゆくことによる激しい主張

4. 行動的経験価値

とにかく社会や既存権力に反抗するライフスタイル

5. 準拠集団

「とにかく反抗する」ことで不良どころじゃないヤバイ集団への帰属意識(極左集団など)

80年代のロックスタイル 〜ニューウェーブの台頭〜

80年代はパンクが破壊したロックマナーの上にニューウェーブと言われる全く新しい流れが台頭してきた時代です。
シンセサイザーの大胆な導入と打ち込みを使ったミニマルなビートでそれまでの複雑なロックとは真逆のアプローチが流行しました。

代表的なロックアーティスト
トーキング・ヘッズ

キュア

ジョイ・ディヴィジョン

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

打ち込みやシンセを使用したミニマルビートで70年代の構築的な楽曲構造と完全に決別

2. 感覚的経験価値

電子楽器や洗練されたダンスビートを使用することによる比較的テッキーで未来っぽいイメージ

3. 創造的経験価値

音楽的に自由度が高まり、よりクリエイティブでアーティスティックな志向

4. 行動的経験価値

自分の好きなファッションをより自由に表現する

5. 準拠集団

聴くことで、「最新のものに興味がある」「センスがいい」集団に帰属できる

90年代のロックスタイル 〜オルタナ・グランジの時代〜

90年代のアメリカではパンクとハードロックをかけあわせた破壊的サウンド、退廃的な表現が綺麗に整頓されたロック・ポップスに対するカウンターとして機能しました。様式としては新しいものでしたが、本質としてはロックが本来持っていた荒々しさをへの回帰というものが含まれていました。

代表的なロックアーティスト
ニルヴァーナ

パールジャム

ピクシーズ

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

パンク的な性急アプローチとハードロック的なリフ主体の楽曲構造の融合

2. 感覚的経験価値

80年代の享楽的な印象から一転して退廃的でシリアスな印象で90年代のしらけた風潮を捉えた

3. 創造的経験価値

コテコテにプロデュースされたロックに対する反動で、音源やプロデュースなどをDIYでやる事を推奨した

4. 行動的経験価値

80年代的なゴージャス・モテモテ志向への反動で、等身大かつ素朴な価値観を訴求した

5. 準拠集団

派手なステージ衣装よりも普段着でステージに立つなど、「現代の若者」であることに焦点を当てた

00年代のロックスタイル 〜リバイバルの時代〜

代表的なロックアーティスト
ハイヴス

ストロークス

ジェット

流行スタイルの特徴を顧客体験の法則に代入する

1. 知覚的経験価値

古いロックを想起させるようなシンプルかつ原始的な楽曲構造

2. 感覚的経験価値

オールドロックの世界観を想起させるファッション

3. 創造的経験価値

特になし

4. 行動的経験価値

特にナシ(この頃になると背景のカルチャーが不明瞭になってくる)

5. 準拠集団

特にナシ(この頃になると背景のカルチャーが不明瞭になってくる)

総括

今回の試みを行って、改めて気づいたことがあります。

それは、ロックの市場というのは前のディケイドで溜まったフラストレーションを次のディケイドで解消していくというサイクルが特に顕著だということです。
それはもともとロックが「サブカルチャー」を色濃く反映した産業だという理由からだと思います。

ロックミュージックは若者のための音楽ですので、10年も経てば市場での主な消費者もある程度入れ替わり、”体験”したい事のニーズも変遷していきます。
過去のアーティストたちは、”体験ニーズ”の変化を空気感として敏感に読み取り、数々のマスターピースを世に残してきました。

現代では、iTunesの影響やスマートデバイスの普及で、音楽嗜好のマイクロ化・個人化がさらに加速してしまったため、このようなディケイドごとの市場の変化というのは見えにくくなってしまいました。

すなわち、アーティストは「好きなものを作る」・消費者は「好きなものを聴く」という個人主義的で大きな流れの無いポストモダンの図式が定着しつつあります。
僕もPCで宅録した曲を、サウンドクラウドでシェアするというのを趣味にしておりますが、それはかなり現代的なロックとのつきあい方だと勝手に理解しております。

ニコニコ動画から歌手デビューしたり、バンドキャンプからスカウトされるというのは日本で起こっている音楽業界のポストモダン化がもたらした現象の1つです。

かつて世界を動かすほどに大きな流れになった”ロック体験”は、今後、好きなものを好きなように表現して世界のどこかにいる誰かが共感してくれるという小さな”体験”になっていくと予想されます。

編集後記

やっぱりロックは最高です!!

servi

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